Path: coconuts.jaist!wnoc-tyo-news!news.nc.u-tokyo.ac.jp!makino From: makino@grape.c.u-tokyo.ac.jp (Jun Makino) Newsgroups: fj.sci.math,fj.sci.physics Subject: Re: オブジェクト(対象)とメタ Date: 13 Jul 1998 14:31:30 GMT Organization: College of Arts and Sciences, Univ. of Tokyo Lines: 47 Message-ID: <6od5o2$n7p@news.nc.u-tokyo.ac.jp> References: <01bdabf9$67f41de0$82a5f4c0@tecra_71.rtri.or.jp> <6obppr$o2r@news.nc.u-tokyo.ac.jp> NNTP-Posting-Host: provence.c.u-tokyo.ac.jp X-Newsreader: mnews [version 1.19PL2] 1996-01/26(Fri) Xref: coconuts.jaist fj.sci.math:6197 fj.sci.physics:8100 の記事において okatsuya@venusux1.kek.jpさんは書きました。 >> > えっ、そうなんですか。ミクロスコピックなレベルの振舞いから出てこ >> > ない統計物理学の法則ってのは、具体的には例えばどんなものですか。 >> >> 牧野さんは物理学が専門ですよね. 私の専門がなにかは自分では良くわかりません。 >> こう聞かれると, 少し自信無くなりますが. >> >> とりあえず, 平衡系の統計物理学に限りますと, 統計物理学の基本法則は >> 次の 3 つの段階に分ける事ができると思います. >> >> 1) 物理的に安定な「熱平衡状態」と呼ばれるものが存在する. >> この場合, 安定とはわずかに熱平衡状態からずれても, 時間が経てば熱 >> 平衡状態に戻る事を意味してます. >> >> 2) 熱平衡状態は統計的な方法で表現できる. >> >> 3) 熱平衡状態ではエントロピーが最大になる. >> あるいは, 等重率の原理を満たす. >> >> この中で, 1), 2) まで仮定しないと, 微視的物理法則には還元できないと思 >> いますが, いかがでしょう? これは全部まとめていわゆるエルゴード仮説、つまり孤立系はエルゴード性を 持つというので置き換えていいのではないですか。熱平衡状態ってものがある というような仮定が先験的におかれているとする必要はないでしょう。置き換 えていいとすれば、問題はミクロな記述、すなわちボルツマン方程式からエル ゴード性がでてくるかどうかというボルツマン以来の問題そのものということ ですね。 ボルツマン方程式からエルゴード性を導くことには厳密な意味では成功してい ないというべきなのでしょうが、でも、これはエルゴード性が「微視的物理法 則には還元できない」というのとはちょっと違う問題であるように思います。 例えば平衡系の分子動力学計算なんてのは、ミクロな物理法則からマクロな記 述が出てくるからこそ可能なわけです。モンテカルロ法はエルゴード性の仮定 を使っているともいえますが、分子動力学計算は実際に位相空間での軌道を追 いますから、エルゴード性の仮定があらかじめ組み込まれているわけではあり ません。このような古典多粒子系の数値計算では、病的な例を別にすれば実用 上エルゴード性とみなせるものが成り立っているということが示されていると いっていいように思います。 牧野@東大駒場